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「植木の命をつなぎ、人と人とをつなげる」というサステナブルな取り組みとは?
サステナブルな取り組みをされている人物にスポットをあて、その人のストーリーや想いをslowz編集部がインタビュー。今回は八王子で造園業をされている株式会社やましたグリーンの山下力人さんにお話しをお伺いしました。山下さんは『植木の里親』『もらえる植物園』という事業を展開されています。
「植木の命をつなぎ、人と人とをつなげる」というサステナブルな取り組みとは?
ーー山下さんが展開されている『植木の里親』、『もらえる植物園』とはどんなものなのでしょうか?
「植木のお世話ができなくなったり、ご自宅の老朽化による建て替え、引越し、入院など、生活環境の変化や植物の成長などで共存しづらくなってしまった植木たちを、伐採せずに一度預かり、それを次のもらい手・里親を探して、新しいお庭に植栽するということをしています。様々な事情があって育てられなくなった植物を伐採処分せずに、生かしたまま引き取り、こちらで管理しながら、新しく育てる里親さんを探します。「もらえる植物園」は、そんな場所になっています。料金も移植や運搬に関しての人件費だけを頂き、植物の命をつなぎたい家族と、新たに植物を育てる里親さんを探しています。植物には価格をつけず、ビジネスとしてではなく、家族の想いと植木の命をつなぐために始めました」
ーー『植木の里親』『もらえる植物園』を始めたきっかけを教えてください。
「高齢化による庭じまいが広がり、植木を伐採するという仕事が多くありました。ある時、年配の女性顧客が、『本当は伐採したくないのよね』と言って涙を流さたのです。亡くなったご主人が大切に育てていた植木なので、本当は伐採するのが忍びないと話しを聞かせてくれました。『でも、もう私には手に追えないし、どうしようもないから、伐採せざるを得ないのよね』と。その話を聴いた私は、『では、この植木はうちの資材置き場で育てるので、生かしたまま移植します』と、提案してみました。それがこの取り組みの始まりです。
その後も伐採の仕事があるたびに、依頼者の方にその植木に対する思い出や、本当はどうしたいのかを、聴いていきました。
そうすると、皆さん口を揃えて、『いや本当は伐採したくないんだけど仕方ないのよね…』とおっしゃるんです。ならばと、その都度、植木を生かしたまま引き取っていったら、いつの間にか資材置き場が植木でいっぱいになり、植物園のような状態になってしまいました。今の正確な数は把握していませんが、800種類くらいはあると思います」
ーー引き取ってきた植木の里親探しはどのようにされているんですか?
「最初は私達が提案する造園工事の中で植栽を勧めていくのみでした。実はこんな植木がたくさんあるのだけど植えてみませんかと。それが少しずつ口コミで広がり、ある時、テレビ取材を受けて、その放送後から一気に認知が広がり、全国からお問い合わせをいただくようになりました。
今はWEB上に引き取った植物の情報を掲載して発信していますが、植物は生き物なので、フィーリングが大切だと考えています。里親希望の方には植物を直接見て、触れ合っていただくことを大切にしています。そこで引き取っても良いと思ってくれた方にお引き渡しするようにしています」
ーー山下さんが感じられているこの活動の意義はどんなところにありますか?
「最初はこんなに認知が広がるとは思っていませんでした。でも、植物は生き物なので、一度預かったら、途中でやめることはできません。継続するうちに徐々に認知が広がっていきました。
お庭にお伺いしお話しをする中で、すでに植物を伐採処分してしまった人からは、「伐採するしか選択肢がないと思って、処分してしまったけれど、今では本当に後悔している。この活動を知っていれば、命を助けてあげられたのに。あのとき伐採しなければよかった」という話をよく聴きます。人生のターニングポイントで、家族が大切にしていた植物を、自分の判断で伐採処分してしまったことに、罪悪感を持って生きている方が多いことを知ったのです。
それなら、我々庭師がもっている植物を移植する技術を活かして、伐採せずに命をつなぐ選択肢を増やすことで、罪悪感なく、その後の人生も幸せに過ごすことができるかもしれない。家族が大切に育ててきた命が、今もどこかで育っていると思えば、植物を手放す人たちの人生も豊かになるし、植物も生き延びることができるのです。だからこそ、この活動を今も続けています」
ーーこちらの事業は社会貢献的なものが大きいと思いますが、何かプラスの側面などはありますか?
「この活動を始めてから、今までやっていた事業、造園工事や庭木の手入れなども、今までやってきた本業の依頼件数が増えてきました。やっぱりどうせ頼むなら、植物を大事に扱ってくれるところに頼みたいとおっしゃっていただけることが多いですね。それと、植木を引き取った里親さんたちも、その植物に対しての責任を感じて、枯れないようにお水をあげなきゃなど、すごく関わってくれるのです。今まで興味がなかった荒れていたお庭をキレイにしようとか、他の植物もケアしようなど、植物に興味を持ってもらえるようになったり、そのような人が増えているのが、本当に嬉しいです」
もらった側も、育てた側の思いを思いを受け継ぐ。人と人とがすごく繋がり合う取り組み
ーー忘れられないエピソードはございますか?
「たくさんありますが、ひとつ思い出深いのは、福島県がご実家の方の東京に住んでいる女性のエピソードがあります。福島県のお父様がお亡くなりになり、娘さんが実家を引き継いだのです。本当はその実家を売却しようとしたそうなんですが、お父様が生前にとても植木を大事にされていて、いつも庭にいたことを思い出されました。その庭を眺めると本当にお父さんの姿がぼんやり見えるぐらい思い出がつまっているから、どうしてもその植木達を伐採したり、処分したりということに踏み切れず、10年間も東京から、福島に通い続けて管理されていたのです。その方がある時、私達の活動を知って依頼してくださいました。八王子から福島まで引き取りに行ったのですが、そのとき、その娘さんが、『これで安心して実家を売却することができます』って言ってくださいました。
また、『難病でこれから入院します』という方もいらっしゃいました。大切にしていた植木を置いていくので心配だ。世話しないと枯れちゃうのがとても気になる、心残りなので、面倒見てくれませんか、ということでお預かりしました。引き取った時に『これで本当に安心して治療に専念できる』って言ってくださったことも印象的でした」
ーーそのように、植物に対しての思い出や、植物への感情なども、引き継がれるんですね。
「そうですね。今では全国から問い合わせをいただいており、関西や東北地方などにも植物を引き取りに行きました。私たちは、植物を引き取り、もらい手につなげるということだけではなく、私たちなりの付加価値をつけるようとしています。例えば、植物の管理では、見習いの庭師が剪定の学びにしたり、剪定教室を開催して地域貢献をしたり、さらに、その様子をYouTubeにアップして、植物リテラシーの向上に寄与するようにしています」
ーー見習いの方に剪定をする機会を与えたり、若手育成も積極的に取り組んでいらっしゃるわけは?
「若手が育つということは、実際の造園の現場で戦力になります。以前、僕が修行していた時代は、技術は見て覚えろ技を盗め、といった昔ながらの職人の世界で、直接教えてもらえないし、すごくわかりづらい。しかも技術習得にすごく時間もかかるんです。その自分のもどかしい体験から、うちに来てくれた若い子には積極的に植物と関わり、直接技術を学んでもらって、植物と関わるのは楽しいと思ったまま、庭師として早く成長できるようにしたいと思っています」
ーーやましたグリーンさんでは、女性も多く活動されていらっしゃいますよね。
「元々は職人の世界なので、体力的にもどうしても男性が多かったんですが、この活動のおかげでいろんな人から、うちで働きたいですって言ってもらえるようになりました。その中でも、女性を雇用すると、会社全体の雰囲気も変わるし、繊細な気遣いなどプラスの面が大きなと思います。女性は感性が豊かなので、剪定方法一つとっても、植物に対する愛情の注ぎ方も素晴らしいものがあります。女性は庭師に向いていると思います」
ーー若手の方も多く働いていらっしゃいますね。
「造園業に携わる人材の高齢化が進んでいるように感じています。その中で、今の若い子たちは環境意識も高く、SDGsに関わる仕事を希望する人が増えています。「植木の里親」「もらえる植物園」は、SDGsに直結する事業であり、就職希望者の若者がたくさん集まってくれています。茨城県や山梨県など、県をまたいで就職してくれる人もいます」
ーーやましたグリーンで働く人の共通項や、大切にしているルールなどはありますか?
「僕が考えるチームは、能力が平均的な人を育てるよりは、一人一人の能力が尖っていて、パズルのピースのように個性があるメンバーが集まっている状態が理想です。何か欠けてるところはあってもいいけど、この人の光る部分が個性的だったり、その長所をみんなが理解して、いいね!と伝えることができる空気感を大切にしています。突拍子もないようなことでもいいから、自分はこうしたいと提案してくれる人が魅力的ですね。そのためにも、人の意見を絶対に否定しないというルールを設けています。今のメンバーも、私がいなくてもみんなで集まってこうした方がいいんじゃないかなど、自発的に話しあって仕事を進めてくれています。ブログでの情報発信のほかに、植物が里親さんに引き取られる時には、これからこの人が育てますよと植物と里親さんを一緒に写真に撮って、育てていた方に手紙やメールと一緒に送っています」
ーー人と人とを結ぶんですね。単に預かり、渡すだけではなくて、その後の安心みたいなものをお届けするような活動もされてるんですね。
「やはり、育てた方も、その後どうしているかなと気になっている方も多いので、安心していただけます」
ーー最近、SDGsやサステナブルという言葉がテレビやメディアでも取り上げられる機会も多いですが、山下さんにとってサステナブルの定義とはどんなものですか?
「元々自分が憧れていた庭師の世界に入ったときに、憧れていた世界と現実とのギャップを感じました。現実と憧れは違うと感じましたが、そこで諦めないで、少しでも憧れに近づけようと努力してきました。今より良くなるように、自分で職業觀をつくり上げいく。夢を夢のまま、憧れを維持して、現実を夢に近づけていく行動が僕にとってのサステナブルですね」
ーー夢を夢のまま維持していくために現状をより良くする。そのために必要なものはなんですか?
「自分が人を育てる側に立ったとき、伝えられるのは情熱だけかなと思うんです。情熱をそのまま、熱を熱のまま伝えることが大事なんです。いくら知識や技術を教えても、そこにこちらの情熱が乗っかってないと伝わらないと感じています。だから、意識して自分の情熱を絶やさないようにしています。そのことこそ、夢に向かうために、チームで現状をより良くするために必要なことだと思っています」
ーーありがとうございます。その山下さんの情熱が、若手の方に伝わったり、若手の方がまた情熱を持って植物に接したりなど、想いや熱量は人に伝播、伝わっていくものなんですね。では、サステナブルは気になるけど、行動に移すにはハードルがあると思われている方に、何かメッセージをいただけますか?
「そうですね、サステナブルって結構ハードルが高いイメージがあると思うんです。僕も実際そう思っていたのですが、でも、僕たちがやっているのって何か特別新しい技術や発想が必要だったわけではなくて、ただ本当に昔から庭師さんが持ってた植物を動かすっていう技術と、今お客さんが困ってること、目の前にいる人が困ってることを解決しただけなんです。だから、大きく捉えずに、本当に今できる小さな一歩でいいんじゃないかなと思います」
ーー新たに何かチャレンジしなきゃ、変えなきゃという気持ちではなくて、今自分の中でできることを一つずつ始めていくということですね。
「そうですね。大きな社会貢献って考えると、どうしても難しいと思ってしまいますが、そうではなくて、すぐ目の前にいる人、一番近くにいる人の困っていることを何とかしてあげようっていう、小さな一歩でいいと思います。植物に対しても皆さんにもっと関わっていただけたらと思います。すぐ枯らしてしまうから怖いという声も聞きますが、枯れてしまうのはある意味仕方ないことなので、そこで植物と関わらなくなるのが一番サステナブルに遠ざかってしまうと思います。なので、勇気を持って植物と関わってもらって、枯れてしまったら、それはそれでまた土に返してあげればいいこと。なので、とにかく関わってほしいですね」
ーーこの事業を通して叶えたいことや伝えたい価値観は?例えば5年後10年後にどうなっているのが理想ですか?
「 今やっている『もらえる植物園』って、ある意味社会貢献的な要素が強いと思うんですね。育てられなくなったから引き取って育てて欲しいと頼まれることが多いのです。なので、長い間生きてきた樹木が多く、50年、100年と長い間生きてきた植木、そのこと自体が価値になっていったらと思います」
ーー50年、100年生きてきたことが価値といいますと?
「大きく育っちゃったから大変だとか、幹が太いと植えるところが少ないなど、ちょっとネガティブにとらえられている植木達がかわいそうだなと思うところがあります。50年100年たって、こんなに幹が太くなったからすごい価値だよね。それが引き取られ、価値あるままどこかに植えられる、何か象徴的な場所のシンボルツリーとして植えられるなど、そんな世界になったらいいなと思います。現状ですと、里親を探しやすいのは小さい植物が多いので、大きな植木たちもちゃんと引き取られるような、新たな戦略を事業として生み出していきたいと思います。今ある課題を問題として捉えないで、それをプラス要因として考えて、どんな事業ができあがるのかなとワクワクしながらスタッフみんなで生み出していきたいと思います」
ーーそれは素敵ですね。課題を課題と捉えずに、ポジティブな方向に変換するということを心がけていらっしゃるんですね。それがやましたグリーンさんの中にある、温かみ、アイデンティティのようなものでしょうか。ありがとうございます。