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八百屋さんと考える、野菜の食品ロスと私たちにできること。
slowz編集部が取材した店舗のストーリーや想いをご紹介。このシリーズではお店のストーリーや想いから、消費者の私たちが居心地よくできる暮らしのヒントが見つかるかも。
今回伺ったのは西喜商店さん。京都で創業90年の歴史を持つ老舗の八百屋さんで、毎日市場から新鮮な野菜を仕入れ、飲食店や店舗で販売しています。また、青果流通の過程で出てしまう廃棄野菜をSNSを通じて発信・販売を行ったり、生産者の背景を知ってもらうイベントを企画。八百屋という視点から食品ロスを見つめ、アクションを続けています。
今回は西喜商店の店主である近藤さんに、野菜を扱う八百屋さんからみた食品ロスの状況や、消費者の姿、そして私たちにできることを伺いました。
取材から見えてきたことは、食品ロスは残さず食べることだけで解決する単純な問題ではないということでした。でも、私たちが「野菜を選ぶ視点」を少し変えるだけで、食品ロスに関わることができる。そして、それが意外と楽しい方法にもなりうるヒントも伺いました。最後にはヒントをもとに、ライターのゆりが暮らしの中で実践した実験レポートも。最後までぜひご覧ください。
八百屋になって直面した「見えない」食品ロス
近藤さんが廃棄野菜の発信をはじめたのは、家業の八百屋を継いで間もなくたった2016年ごろ。当時の西喜商店は飲食店への配達が中心で、小売店は休業状態でした。家業を手伝いながらお店としての看板がほしいと思った近藤さんは、小売店を復活させます。
「うちは先祖代々、中央卸売市場から仕入れたもので商売をしているので、僕も市場から野菜を仕入れていました。市場との付き合いが増えてくると、市場から『これも買ってくれないか?』という要望が増えてきて。ある日、要望に応えて水菜を買い取ったんですが、傷んでいる部分がすごく多かったんです。なんとか傷んでいる部分を取り除いて販売しましたが、廃棄部分がとてつもない量で、「めっちゃ捨ててんな」と驚きました。これが僕にとって、はじめて「食品ロス」をリアルに体感した瞬間でしたね」
当時は「食品ロス」という言葉が世間に知られ始めていたころ。といっても、中心は家庭や飲食店などで出る食品廃棄物が中心でした。でも、そこにたどり着くまでに、実はたくさん廃棄されている食材がある。その事実は意外と知られていないと思った近藤さんは、水菜のエピソードをブログで発信。すると、予期せずいろんな反響があったそう。
「みんな興味があって、知らないだけなんだと思いました。最初はなんとかお店で売るしかなく困っていましたが、だんだん流通の過程で発生する野菜の存在を発信することは、八百屋である僕にしかできないことだと思うようになりました」
今だからこそ必要な八百屋の「新たな役割」
新たな「八百屋」の役割を見出した近藤さんは、その後もSNSを通じて発信を続けます。最近では、廃棄になってしまう野菜の引き取り手を募集する「フードレスキュー」の募集や、それらの野菜を詰め合わせた「覚悟の食品ロス削減野菜ボックス」も販売。定期的に引き取ってくださる方も現れ、反響も少しずつ広がっています。
また、現在は青果流通のプロセスをちゃんと伝えることも大切にしているそう。
「食品ロスは根本的な原因がわからないと対処できません。食品ロスに関しては、農家、農協、市場、お店、家庭といった場面ごとに起こっている原因が全然異なります。その中で一番なじみがないのは流通の部分だと思うんです。私たちはいつも野菜を食べているのに、その野菜がどういう仕組みで、どういう人によって届けられているのかは意外と知りません。その仕組みがわかれば食品ロスの原因を認識して、それぞれが無理のない範囲で参加できる、解決方法を見出すことができると思います。だから、青果流通の過程を知っている僕がちゃんと伝えていきたいと思ったんです」
実は筆者である私も、西喜商店さんのSNSを通じて、青果流通の食品ロスを知った一人。私にできることを考えた末、思い至ったのが今回の取材でした。食品ロスの存在や流通の仕組みを知ってから、無理のない範囲で出来ることを考えてみる。そんな近藤さんの想いは少しずつ、広がりを見せています。
消費者の選ぶポイント、すこしズレてない…?
数十年ぶりに再開した小売店を再開した西喜商店。近藤さんがお店を始めてから気づいたことは、「消費者がよくわからない視点から野菜を選んでいる」ということでした。
「お客さんが同じ日に同じ産地から仕入れた野菜をじっくり吟味し、ほとんど変わらない野菜を選んでいる姿がすごく不思議なんです(笑)。
野菜のおいしさで大事なのは品種・鮮度・産地です。特に、旬のものを食べるということがとても大切で、色や形で味が左右されることはほとんどありません。だから、そんなに慎重に選んでもそこまでかわらないよ!?といつも思っています(笑)」
旬とは野菜が一番おいしくなる時期であり、また多く収穫できる時期でもあります。つまり、その時期に流通量が多くなるので、消費者にはできるだけ食べてもらいたい時期でもある。だから、旬の野菜を使うことは消費者にとっても、農家にとっても、一番嬉しい時期であり、食品ロスを減らす一手にもなります。
また、お野菜は調理方法との相性も大事。だからお客さんには、可能な限りどんな料理をつくるのか聞いて、野菜を勧めているそう。
「同じ野菜でも品種によって適した調理方法があります。確かにきれいな野菜は見栄えもいいですが、それよりもおいしいものを選んでほしいじゃないですか。だから、個人的にはもっと相談してほしいなと思います。今日の献立や予算とか。それに合わせたおいしい野菜を見繕うのが僕の仕事なので」
取材中にも、何人かお客さんに「今日は何を作るんですか?」、「ポタージュにするならこっちの方がいいかも」と丁寧に話し、野菜を届けてる光景に出会いました。そのたびに、短い時間の中で的確な野菜を進める姿に驚きつつ、「これだけ自分のニーズに寄り添ってくれるお買い物はスーパーではできないな」と個人商店でお買い物する醍醐味を実感しました。
食品ロスに関わる方法の一つは、「自分に合ったものを自分に合った分だけ買う」ということなのかもしれません。自分に合った物や量が分からないのなら、聞いてみればいい。そんな何気ない相談ができるのがスーパーでは体験できない魅力だと思います。
「あるもの」からつくるからこそ生まれる、豊かな食事
食品ロスや消費者の現状が見えてきた中、これから身の回りの社会がどうなったらおもしろいか伺ってみました。近藤さんが考える理想の社会は「その時あるものを食べる風潮が根付いている」状態とのこと。
「今日はカレーをつくりたいからレシピ通りの食材を買いに行くのではなく、今日めっちゃ大根あるから、大根カレーにしようかなという風潮になってほしい。僕のお店は京都にありますが、真冬の京都でカレーを作ろうとすると、じゃがいもと玉ねぎはふつう手に入らないんです。それができるのは、北海道で夏から秋にかけて作ったものを農家さんやJA(農協が)適正な温度管理の下で貯蔵しているから。でも簡単に遠くの食材を買う前に、あるものでなんとかする意識がもう少し根付いてくれるといいなと思いますね」
現在、近藤さんは八百屋のみならず、食に関する様々なイベントも企画・運営をされています。その中でもユニークなのは「さらえるキッチン」というイベント。参加者はその日行き場がなかった食材を使って料理をつくりますが、その日行き場のなかった食材も、レシピも、その場の即興勝負。みんなで知恵を出し合いながら、その日でしかつくれないごはんをつくります。
最初は不安そうな参加者も、気が付けばいろんな料理のアイデアを出し合い、料理ができた後のご飯タイムは大盛りあがりだそう。今はコロナ禍でなかなか開催はできていませんが、これから徐々に再開していきたいそうです。
「食品ロス」は「無駄な食材をできるだけ使わないこと」が肝要とされます。しかし、厳密には「今ある豊かな素材を大切に使いながら、足りないものを補う」という意識が大切なのではないでしょうか? 複雑な食品ロスの問題も、「買わない」「使わない」という否定の意識のみならず、目の前にあるものをちゃんと使ってみる。という意識が私たちにできることを増やすヒントになるかもしれません。
~Sustainable Tips~ 食材を見てから献立を考えてみる。
取材を終え、「あるものから料理を作ることは楽しいよ」という言葉に興味がわいた私は、早速実践することを決意。私の近くに八百屋さんはないのでスーパーへ向かいました。私の近くのスーパーには、廃棄寸前の野菜が割引価格で置いてある「フードレスキューコーナー」があり、今回はそこにある野菜を使って料理してみました。
コーナーにはすこしひしゃげた状態のアスパラガスとキャベツを発見。形はそこまで問題ないと知っていたので、その場でレシピを検索。アスパラガスはベーコンで巻いてアスパラガスのベーコン巻きに。キャベツは少し柔らかくなっていたのでお味噌汁にしてみました。
普段あまり料理をしない私にとって「ありもの」で作ることはハードルが高いかな…。と心配していましたが、今は簡単なレシピがたくさんあるので、意外と簡単。そして、意外にも家族の評判は上々。アスパラガスについては「あんまり家で食べなかったけど、アスパラガスって意外とおいしいね」と話題になりました。
食材を見てから料理を考えることで、自分では考えもつかなかった料理に出会える。さらに、自分の料理レパートリーが増えるので、自分のレベルが上がったようでうれしい。料理とはすごく日常的な営みで退屈なものかと思っていましたが、未知なことに出会えるスパイスの効いた楽しい時間だと気づく時間となりました。
最近面白いことないな…と思っている方はぜひ試してみては?
<Information>
近藤さんが定期的に開催しているイベント情報はこちらから。
新たな「八百屋」の役割を見出した近藤さんは、その後もSNSを通じて発信を続けます。最近では、廃棄になってしまう野菜の引き取り手を募集する「フードレスキュー」の募集や、それらの野菜を詰め合わせた「覚悟の食品ロス削減野菜ボックス」も販売。定期的に引き取ってくださる方も現れ、反響も少しずつ広がっています。
また、現在は青果流通のプロセスをちゃんと伝えることも大切にしているそう。
「食品ロスは根本的な原因がわからないと対処できません。食品ロスに関しては、農家、農協、市場、お店、家庭といった場面ごとに起こっている原因が全然異なります。その中で一番なじみがないのは流通の部分だと思うんです。私たちはいつも野菜を食べているのに、その野菜がどういう仕組みで、どういう人によって届けられているのかは意外と知りません。その仕組みがわかれば食品ロスの原因を認識して、それぞれが無理のない範囲で参加できる、解決方法を見出すことができると思います。だから、青果流通の過程を知っている僕がちゃんと伝えていきたいと思ったんです」
実は筆者である私も、西喜商店さんのSNSを通じて、青果流通の食品ロスを知った一人。私にできることを考えた末、思い至ったのが今回の取材でした。食品ロスの存在や流通の仕組みを知ってから、無理のない範囲で出来ることを考えてみる。そんな近藤さんの想いは少しずつ、広がりを見せています。
消費者の選ぶポイント、すこしズレてない…?
数十年ぶりに再開した小売店を再開した西喜商店。近藤さんがお店を始めてから気づいたことは、「消費者がよくわからない視点から野菜を選んでいる」ということでした。
「お客さんが同じ日に同じ産地から仕入れた野菜をじっくり吟味し、ほとんど変わらない野菜を選んでいる姿がすごく不思議なんです(笑)。
野菜のおいしさで大事なのは品種・鮮度・産地です。特に、旬のものを食べるということがとても大切で、色や形で味が左右されることはほとんどありません。だから、そんなに慎重に選んでもそこまでかわらないよ!?といつも思っています(笑)」
旬とは野菜が一番おいしくなる時期であり、また多く収穫できる時期でもあります。つまり、その時期に流通量が多くなるので、消費者にはできるだけ食べてもらいたい時期でもある。だから、旬の野菜を使うことは消費者にとっても、農家にとっても、一番嬉しい時期であり、食品ロスを減らす一手にもなります。
また、お野菜は調理方法との相性も大事。だからお客さんには、可能な限りどんな料理をつくるのか聞いて、野菜を勧めているそう。
「同じ野菜でも品種によって適した調理方法があります。確かにきれいな野菜は見栄えもいいですが、それよりもおいしいものを選んでほしいじゃないですか。だから、個人的にはもっと相談してほしいなと思います。今日の献立や予算とか。それに合わせたおいしい野菜を見繕うのが僕の仕事なので」
取材中にも、何人かお客さんに「今日は何を作るんですか?」、「ポタージュにするならこっちの方がいいかも」と丁寧に話し、野菜を届けてる光景に出会いました。そのたびに、短い時間の中で的確な野菜を進める姿に驚きつつ、「これだけ自分のニーズに寄り添ってくれるお買い物はスーパーではできないな」と個人商店でお買い物する醍醐味を実感しました。
食品ロスに関わる方法の一つは、「自分に合ったものを自分に合った分だけ買う」ということなのかもしれません。自分に合った物や量が分からないのなら、聞いてみればいい。そんな何気ない相談ができるのがスーパーでは体験できない魅力だと思います。