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日本は昔からサスティナブルだった? aeru gojoで学ぶ、消費に頼らずサスティナブルに心地よく暮らすヒント
slowz編集部が取材した店舗のストーリーや想いをご紹介。このシリーズではお店のストーリーや想いから、消費者の私たちが居心地よくできる暮らしのヒントが見つかるかも。
今回伺ったのは京都にある「aeru gojo」さん。日本の伝統や先人の智慧を現代の感性と和えて、次世代につなぐため、様々な事業を展開する「株式会社和える」が営むお店です。
筆者である私は、slowzを通して「サスティナブル」に向き合う中で、サスティナブルに暮らすヒントは日本の伝統にあるのではないか? と思っていました。そんな思いから、今回は伝統と現代をつなぐ存在であるaeru gojoホストマザー(店長)の中川さんに、日本の伝統から考えるサスティナブルに暮らすためのヒントを伺いました。
取材から見えてきたことは、日本に伝わるサスティナブルな暮らしのヒントは「手間をかける」ということ。サスティナブルに暮らすといいながら、消費の速いサイクルに飲み込まれそうになる中で、私たちはどう心地よく暮らしていけるのか? そのヒントは「お気に入りのものを通して、自分にも誰かにも手間をかける」ということでした。
今回も最後に筆者が、お話から影響されて試してみた暮らしのヒントを紹介しています。ぜひ最後までご覧ください。
商品の値段にはちゃんとした「意味」がある
aeru gojoのコンセプトは「aeruのおじいちゃん・おばあちゃん家」。昔ながらの京町家の一角にあり、店内は畳の香りが広がるどこか懐かしい空間となっています。
「お家」というコンセプトをもっているからこそ、店長である中川さんも「ホストマザー」と呼ばれているそう。訪れるお一人おひとりが、長く暮らしに寄り添う「一生モノ」に出逢ってもらいたいという想いから、ゆったりとした空間の中で一つひとつの商品を丁寧に紹介してくださいます。
「心豊かに暮らすためには、たくさんのものに囲まれているよりも、1つだけでもいいので『自分のお気に入り』と長く暮らすことが大切なのではと考えています。大量生産・大量消費と言われる時代だからこそ、大切なお気に入りを長く愛する。そのような意識の方が増え、気持ちよく暮らしていただけたらと思っています」
aeru gojoに並んでいる“0歳からの伝統ブランドaeru”の商品はシンプルなデザインで、「こぼしにくい器」「こぼしにくいコップ」シリーズは、同じデザインを日本各地の伝統産業の職人さんが製作されています。産地によって素材や表情が異なるので、実際に手触りを感じながら自分のお部屋との相性や使い心地を、具体的にイメージしながら選ぶことができます。
そして興味深いのが、中川さんは商品一つひとつの特徴だけでなく、商品の生まれた土地の風土や歴史などまで細かく伝えておられることでした。取材のためにより丁寧に話しているのか伺ったら、どんなお客様にも、それぞれのお客様の興味関心に合わせて商品にまつわる話を伝えておられるそう。
「目の前の最終製品だけでなく、ものが生まれる背景や、職人さんの想いまで想像してもらえたらと思って、お伝えしています。例えば、aeruの器を作っているのは、ろくろを挽く陶芸の職人さんだけではありません。山から材料となる石や土をとる人、土を調合する人など、たくさんの方々が関わっています。価格だけで判断するのではなく、ものが生まれる背景や過程も知っていただいた上で、目の前のものたちの価値を見つめていただきたいと思っています。」
今は安価に手に入るものも多くあります。でも、本来ものづくりにはたくさんの工程や資源を使っているはず。それを考慮した上で、商品の価値を判断することはとても自然な考え方だと思います。
「商品の価格背景にまで想像を巡らせその意味を確かめてみる」それはその商品の背景を自然と想像することであり、消費者にとっても手間をかける大事な工程なのです。
最もお目が高いお客様は「赤ちゃん」
でも今はたくさんのものに出会える時代。「お気に入りのもの」ってどう選べばいいんでしょう…?そんな問いに対し、中川さんは軽やかに答えます。
「そんな重苦しく考えず、感覚で選んでもらえたらと思います。実は、赤ちゃんって本当にお目が高いのです」
え、赤ちゃんですか…?
「はい。赤ちゃんは、どんなお客様よりも素直で、とても敏感なんです。触りたいものはずっと触っているし、本当に興味のないものは見向きもしない(笑)。肌触りの心地よくないものを着るとすぐに泣きますし、気持ちの良いものを身につけると笑います。だから、私たちもそれくらい素直に物を選んでもよいと思っています。ものに触れたときに直感で気持ちいいな、一緒に暮らしたいな、と感じた物がお気に入りになるのではないでしょうか。」
確かにaeru gojoで様々な商品を触っていると、木のさらさらした手触りや、石のずしっとした重たさを素直に感じ取れます。私も、取材の間、無意識に木の器をずっと触っており、自分は木の触り心地が好きなのだと気づきました。
価格やブランドで選ぶことも素敵な視点です。でも、自分の五感を活かして選ぶことで選択肢が広がり、心が本当に喜ぶものを選べる気がします。自分の感覚と感性をひらき、自分とじっくり対話しながら選ぶ。それが「お気に入りのもの」を見つけるコツなのかもしれません。
壊れてしまうからこそ、人はものを大事にできる
お気に入りのものに出会えた時、「ずっと使うぞ!」とわくわくするもの。でもそれをずっと大切にできるとは限りません。恥ずかしながら、私も気が付いたら使わなくなってしまったことや、壊れてしまい廃棄してしまった経験が多々あります。
ものをちゃんと使い続ける秘訣はなにか? 中川さんに伺ってみました。
「私たちは、『日本の伝統は人を優しくする』と考えています。実際に、職人さんが生み出したものに囲まれて暮らしていると、自分の心が豊かになっていると実感します。その理由は『手をかけて大切にするから』だと考えています。例えば、壊れやすいものだと大切に扱いますし、お手入れをしないと劣化してしまうものは、手をかけてお手入れをします。こういったことが、心の豊かさ、優しさを育んでいきます。子どもたちも同じで、小さな頃から、大切に扱わないと壊れてしまうものも敢えて使うということは大切だと考えています。子どもから割れ物を遠ざけるのではなく、丁寧に扱わないと、ものは壊れてしまうということもお勉強ですね。」
最近は新しいものをすぐに買うことができるので、壊れたらすぐ新しいものに買い換えます。つまり「壊れる=終わり」になってしまう。
でも本来は少し違います。ものは壊れても直すことができるし、壊れる前にお手入れすることで長く使うことができる。壊れることはあくまでも通過点で、その前後でものに関わり続けることが「大切にする」ということではないでしょうか。
それが結果的に「大切にする」ことにつながり、購入した時には感じなかった愛着が生まれます。ものは永遠に使えるものではないからこそ、出来るだけ使えるように手間をかけることで、消費の速いサイクルを少し緩めることになります。
ちなみに、aeruでは日本の伝統的な修復の技法である「金継ぎ」で、お直しする“aeru onaoshi”事業を展開しています。割れてしまったお椀やお皿を、重要文化財などの修復も手掛ける職人さんが修繕するので、割れた部分がその器をより引き立たせる魅力となって生まれ変わります。壊れてしまったときの対処法を知っておくのも大切ですよね。
インタビューから気づいたのは、「自分の心に手間をかける豊かさが実は社会の持続可能性につながっていくのではないか」ということ。
作られた背景を知ることで、さまざまな人や場所に思いをはせる。ものをじっくり選ぶ中で自分の感性をひらく。そして、大切にお手入れをしながら、変化していく様子を楽しむ。この一つひとつの行為には必ず人の感情が伴います。
モノを通して私たちは自分の心と自然に向き合い、自然と心に手間をかける余裕をつくる。そんな心持ちがサスティナブルな暮らしを作っていくのではないでしょうか。
社会の持続可能性と個人の心地よさをどう両立させるのか? まだ答えは見つかりませんが、日本にそのヒントがたくさん眠っていることを実感できる時間となりました。
~Sustainable Tips~ 自分の大切なものをお手入れしてみる
手間をかける豊かさを再確認した私は、お家で自分の「お気に入りのもの」を探しました。思い浮かんだのは、大学入学のお祝いに両親からプレゼントしてもらったバック。はじめて買ってもらった憧れのブランドで、学生時代は使うのがうれしくて毎日のように使っていました。
そういえば、そのバックを最近お手入れしていないことに気づき、久しぶりにそのかばんにレザー用のクリームを塗ってみることに。かばんが徐々につやつやしていくなかで、そのかばんを買ってくれた時のことを想いだし、思わず笑みがこぼれてきました。お手入れを終えた頃には、自分の心がほくほくと温かくなっていました。
自分のお気に入りのものには自分にしかない思い出が詰まっています。お手入れをすることで、自分の思い出を振り返ることができる。お手入れをするということは、自分の気持ちの手入れにもなります。
あなたのお気に入りのものはなんですか?ぜひ身の回りの物をみわたして、それを触ったりお手入れしてみたりしてみてください。